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米国株やS&P500の割高・割安を調べると、通常PERとShiller PERという二つの指標が表示されます。
通常PERはそれほど高くないのに、Shiller PERは歴史的な高水準を示している。
あるいは、株価が急落しているのに、通常PERはむしろ上昇している。
こうした場面で、どちらを信じればよいのか迷う投資家は少なくありません。
通常PERだけを見て「まだ割安」と判断すれば、好景気によって一時的に膨らんだ利益を基準に、高値で買ってしまう可能性があります。
反対に、Shiller PERが高いという理由だけで相場から撤退すれば、その後も続く上昇トレンドを逃すかもしれません。
重要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。
通常PERとShiller PERが、それぞれ異なる時間軸と利益を見ていることを理解し、目的に応じて使い分けることです。
■通常PERとは何を示す指標なのか
通常PERは、株価を1株当たり利益で割って計算します。
PER = 株価 ÷ 1株当たり利益
S&P500全体の場合は、指数の価格を構成企業の利益で割り、市場全体の評価倍率を確認します。
一般的には、直近12カ月の実績利益を使う実績PERと、今後12カ月程度の予想利益を使う予想PERがあります。
通常PERの最大の特徴は、現在の企業業績を比較的早く反映することです。
企業利益が増えれば、株価が変わらなくてもPERは低下します。
企業利益が減れば、株価が下落していてもPERが上昇する場合があります。
現在の業績や市場予想に対して、株価が何倍まで買われているのかを確認するには、通常PERが役立ちます。
一方で、利益が景気によって大きく変動するため、相場の局面によって数字が歪みやすい弱点があります。
■Shiller PERとは何が違うのか
Shiller PERは、現在の株価を過去10年間のインフレ調整後利益の平均で割って計算します。
Shiller PER = 現在の株価指数 ÷ 過去10年間の実質利益平均
CAPEレシオ、CAPE Ratio、Shiller PE、PE10とも呼ばれています。
通常PERが1年程度の利益を基準にするのに対し、Shiller PERは10年間の利益を平均化します。
好景気による一時的な利益増加や、景気後退による急激な利益減少の影響を抑え、市場の長期的な収益力に対して株価が高いのかを確認する指標です。
また、過去の利益を現在の物価水準へ調整するため、異なる時代の利益を比較しやすくなっています。
通常PERが「現在または近い将来の利益に対する評価」であるのに対し、Shiller PERは「景気循環をならした長期利益に対する評価」と考えると分かりやすいでしょう。
■通常PERとShiller PERの違いを一覧で整理する
通常PERとShiller PERには、主に五つの違いがあります。
第一に、使用する利益の期間です。
通常PERは直近1年間または今後1年間の利益を使います。
Shiller PERは過去10年間の利益平均を使います。
第二に、景気変動の影響です。
通常PERは直近利益を使うため、好況や不況の影響を強く受けます。
Shiller PERは利益を平均化するため、短期的な景気変動の影響が抑えられます。
第三に、インフレ調整です。
一般的な通常PERでは、過去10年間の利益を物価調整する必要はありません。
Shiller PERでは、各時点の利益を実質化して比較します。
第四に、適した時間軸です。
通常PERは現在の業績や比較的近い将来の評価に向いています。
Shiller PERは、数年から十年以上の長期的な市場評価を考える際に適しています。
第五に、主な用途です。
通常PERは企業や市場の現在の利益水準、同業他社との比較、決算後の評価などに使われます。
Shiller PERは、市場全体が歴史的に高いのか、長期投資の期待リターンにどのような影響があるかを確認するために使われます。
■通常PERが低くても、米国株が割安とは限らない
景気拡大の終盤では、企業利益が高水準まで増加することがあります。
分母となる利益が大きくなれば、株価が高値圏にあっても通常PERは低く見えます。
この数字だけを見れば、「企業利益に対して株価はまだ割安」と判断したくなるでしょう。
しかし、その利益が景気循環上のピークに近く、今後減少する可能性がある場合は注意が必要です。
直近利益を基準に計算された通常PERは、将来の利益減少を十分に反映していない可能性があります。
Shiller PERでは、過去10年間の利益を平均化するため、一時的に高い利益によって割安に見える影響が小さくなります。
通常PERが低く、Shiller PERが高い場合は、現在の利益水準が長期平均より強く、市場が景気循環上の好条件に支えられている可能性があります。
この状態を「通常PERが低いから安全」と判断するのは危険です。
■暴落後に通常PERが高くなることがある理由
株価が大きく下落すると、PERも低下すると思われがちです。
しかし、金融危機や深刻な景気後退では、株価以上の速度で企業利益が減少する場合があります。
たとえば、株価が30%下落しても、利益が50%減少すれば、通常PERは下落前より高くなる可能性があります。
暴落後の株価が長期的には魅力的な水準へ近づいていても、直近利益が急減したことで通常PERだけが高く見えるのです。
Shiller PERは10年間の平均利益を使うため、一時的な利益急減の影響が通常PERより緩やかになります。
そのため、景気後退や暴落後に、市場価格が長期利益に対してどこまで低下したかを確認しやすい特徴があります。
ただし、Shiller PERが低下したから、直ちに底値というわけではありません。
金融環境、信用不安、企業利益の回復、価格トレンドなども確認する必要があります。
■現在のShiller PER40.64から何が分かるのか
2026年7月20日時点のShiller PERは40.64です。
1871年以降の全期間平均は17.41、過去最高値は1999年12月の44.19、過去最低値は1920年12月の4.78となっています。
現在値40.64は長期平均の約2.3倍であり、ITバブル期の最高値にも近い水準です。
この数字は、S&P500が過去10年間の実質利益平均に対して、歴史的に非常に高い評価を受けていることを示します。
仮に通常PERがShiller PERほど高く見えない場合でも、直近の企業利益が強く、通常PERの分母が大きくなっている可能性があります。
現在の利益成長が継続すれば、高い株価が一定程度正当化されることもあります。
一方で、利益が景気循環上の高水準にあり、今後鈍化する場合は、通常PERと株価が同時に上昇する可能性があります。
通常PERの低さだけで安心せず、Shiller PERによって長期利益との距離も確認することが重要です。
■どちらのPERを優先すべきか
短期から中期の企業業績や市場予想を重視する場合は、通常PERを優先します。
決算後に利益予想が変化したときや、同じ業種の企業を比較するときには、通常PERのほうが現在の状況を反映しやすくなります。
数年から十年以上の長期投資で、市場全体の評価水準を確認する場合は、Shiller PERが役立ちます。
S&P500が歴史的に割高か、長期平均からどの程度離れているかを判断するときは、Shiller PERのほうが適しています。
ただし、実際の投資判断では、どちらか一方を選ぶ必要はありません。
通常PERで現在の利益評価を確認し、Shiller PERで長期的な割高感を確認します。
通常PERとShiller PERがともに高い場合は、現在利益に対しても長期利益に対しても高く評価されている可能性があります。
通常PERが低く、Shiller PERが高い場合は、現在利益が景気循環上の高水準にある可能性を警戒します。
通常PERが高く、Shiller PERが低下している場合は、景気後退で直近利益が急減している一方、長期的な価格評価が改善している可能性があります。
両指標の差そのものが、現在の景気と市場評価を理解する材料になるのです。
■予想PERにも注意が必要
予想PERは、将来の利益予想を使うため、株価が今後の成長に対して高いかを判断する際に役立ちます。
しかし、分母となる利益はあくまで予想です。
景気や需要が強い局面では、アナリストや企業の利益予想も楽観的になりやすくなります。
予想利益が高く設定されるほど、予想PERは低く見えます。
その後、企業が業績見通しを下方修正すれば、株価が変わらなくても予想PERは上昇します。
高いShiller PERと低い予想PERが同時に存在する場合は、市場が非常に強い利益成長を前提にしている可能性があります。
その利益予想が実現するかどうかが、現在の株価を維持する重要な条件になります。
予想PERを使う場合は、利益予想の上方・下方修正、売上成長率、利益率、企業のガイダンスも確認する必要があります。
■個別株では通常PER、市場全体ではShiller PERが使いやすい
Shiller PERは、主にS&P500などの市場全体を評価するために使われます。
個別企業でも10年間の実質利益平均を用いて計算できますが、事業構造の変化、買収、赤字期間、自社株買いなどの影響を受けやすくなります。
成長企業では、10年前と現在で事業内容が大きく変わっていることもあります。
そのため、個別株分析では通常PER、予想PER、売上成長率、営業利益率、フリーキャッシュフロー、財務状態などを組み合わせるほうが実用的です。
一方、S&P500全体の長期的なバリュエーションを判断するときは、多数の企業をまとめたShiller PERが役立ちます。
個別銘柄を選ぶときは通常PERを中心に確認し、市場全体へどれほど資金を投入するかを考えるときはShiller PERを確認する。
このように役割を分ければ、指標の特性を生かせます。
■トレード経験者は両指標をどう使うべきか
通常PERとShiller PERは、エントリー方向を直接決めるシグナルではありません。
PERが高いから売る、低いから買うという判断だけでは、強いトレンドに逆らう危険があります。
Shiller PERが歴史的高水準にある現在でも、企業利益が伸び、価格トレンドが上昇していれば、買いポジションが機能する可能性があります。
その場合は、通常よりポジションサイズを抑え、投資時期を分散し、損切りや利益確定を明確にします。
通常PERが上昇し始め、利益予想が下方修正され、価格トレンドも崩れた場合は、高いShiller PERが下落を増幅する背景になる可能性があります。
反対に、株価暴落によってShiller PERが低下し、通常PERは利益急減で高く見えている場合、価格の反転や利益回復を確認しながら分割買いを検討できます。
通常PERは足元の業績変化、Shiller PERは長期的な価格リスク、チャートは実際の売買タイミングを判断するために使います。
■Shiller PERチャートで通常PERだけでは見えない現在地を確認する
Phoenix ConnectのShiller PERチャートでは、1871年2月から現在までの長期推移を確認できます。
現在値、前回比、全期間平均、過去最高値、過去最低値が表示され、全期間、100年、50年、25年、10年、5年、1年へ表示範囲を切り替えられます。
通常PERだけを見ていると、直近利益によって割安に見える局面があります。
Shiller PERの長期チャートを併用すれば、現在の利益が景気循環上で強いだけなのか、市場価格そのものが歴史的に低いのかを考える材料になります。
現在のS&P500が、長期的な企業利益に対してどこまで高く評価されているのか。
過去の高バリュエーション局面と比べて、どの位置にあるのか。
評価倍率が上昇しているのか、低下し始めているのか。
こうした情報を確認することで、PERという一つの数字に振り回されにくくなります。
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